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TFGニュース 2024年5月号

中小企業の健全性支援マガジン(毎月1日発行)
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2024年5月号 No.393

Ⅰ 資金の異動がないのに相続財産!?

― 生命保険契約に関する権利について 

 この仕事をしていると、相続税の計算に携わる機会があります。その度に思うのですが、相続税の計算で一番気を遣うのはいろいろな制度があるのに気が付くかどうか、ということよりも、誰が相続税の納税義務者なのか、相続財産や債務がどれだけあるのか、それらを過不足なく確定させることではないかと思っています。
 今回はそんな相続税の計算において肝となる相続財産、中でも生命保険契約に関するものについて見ていきたいと思います。保険金という目に見えるものの動きがあるものから実際には資金の動きがないにもかかわらず相続財産として考慮しなければならないものまであります。実際に相続財産を固めるにあたって我々も神経を使うところです。できるだけわかりやすく説明していきたいと思います。

生命保険契約を巡る登場人物の確認

生命保険契約において登場するのは以下の4者になります。亡くなられた方がどの立場になるかによって、相続税の計算が大きく変わりますので証券などでしっかりとご確認ください。
  1. 保険契約者
  2. 保険料負担者
  3. 被保険者
  4. 保険金受取者

相続財産になるか否か

  1. 保険金の支払いがあった場合
     保険金の支払いがあったということは保険事故が実際に生じた、つまり、被保険者が被相続人となるケースです。この場合、保険料負担者と保険金受取者との関係で以下の通りに課税関係が決まります。
    ・保険料負担者と保険金受取者が一致するときは、保険金受取者に所得税(一時所得)が課税されます。
    ・保険料負担者と保険金受取者が一致しないときは、保険金受取者に贈与税が課税されます。
    ・保険料負担者が被保険者(被相続人)であるときは、保険金受取者に相続税が課税されます。このとき、法定相続人1名につき500万円の非課税枠があります。
  2. 保険金の支払いがない場合
     保険金の支払いがないということは保険事故が実際には起きていない、つまり、被保険者が被相続人ではないケースです。この場合、保険金の支払いがありませんから保険金受取者は存在しないことになりますが、保険料負担者が被相続人である場合はその先の保険料の支払いが事実上できません。そこで、当該保険契約を継続するかどうかを問わず、いったんその契約を解約するとしたならば得られる解約返戻金等の額を相続財産に加算しなければなりません。このように、被相続人が生前に解約していれば入ったであろう、解約返戻金や満期保険料などを受け取る権利のことを「生命保険契約に関する権利」と言います。
     なお、厳密にいえば、という話をすると、「生命保険契約に関する権利」そのものが相続税の計算に登場するのは保険料負担者が被相続人であって保険契約者が被相続人以外の場合であり、保険料負担者と保険契約者がともに被相続人である場合は本来の相続財産(金品や不動産などと同じ扱い)になります。ですが、どちらの場合であっても相続財産に加算すべき金額は得られる解約返戻金等の額であることには変わりありません。

「生命保険契約に関する権利」について注意すべき点

この「生命保険契約に関する権利」は資金が動かないためなかなか気が付きにくいものになり、相続税の計算において漏れやすい項目になります。さらに、「生命保険契約に関する権利」には注意すべき点が何点かあります。

  • この「生命保険契約に関する権利」は本質的に保険契約者に帰属するべきものとなります。このため保険契約者が被相続人以外の場合には保険契約者は生存していることになりますが、その保険契約者はこの「生命保険契約に関する権利」から逃れることはできません。仮に相続放棄をした場合であってもこの「生命保険契約に関する権利」の相続があったものとして取り扱われますし、遺産分割協議に組み込んで権利を分割することもできません。
  • 実際に保険金を受け取った場合には法定相続人1名につき500万円の非課税枠がありますが、「生命保険契約に関する権利」にはこのような非課税枠はなく、評価額そのものが相続税の対象となります。
                 
     いかがでしょうか? 今回は資金の異動がなくても相続税が課される可能性があるものについてご紹介しましたが、いざ相続税の計算をはじめてからこういうのもある、ということにならないように、普段から生命保険契約について関心を寄せることが大切になってくるのではないかと思います。これを機会にご自身の生命保険を見直すきっかけになっていただければと願っております。

Ⅱ 中小企業向け賃上げ促進税制について

― 令和6(2024)年度税制改正より 
 賃上げ促進税制のはじまりは所得拡大促進税制であります。これは第2次安倍政権下で公表された「日本経済再生に向けた緊急経済対策」に雇用対策等を通じた成長力の強化を目指して、企業による雇用・労働分配(給与等支給)を拡大するための税制措置を創設するという方針を踏まえて、平成25(2013)年度税制改正で創設されました。この制度は導入されて以降、税度の見直しが繰り返されて今日に至っております。
 賃上げ促進税制の導入には2000年代以降、低下傾向をたどっている実質賃金の問題が背景にあります。実質賃金とは、労働者が実際に受け取った給与である名目賃金から、消費者物価指数に基づく物価変動の影響を差引いて算出した指数です。労働者が給与で購入できる物品やサービスの量を示しますが、実質賃金の低下が続くとその購入できる物品やサービスの量が減少し、経済の成長を妨げます。現政権下は「成長と分配の好循環」の実現を掲げていますが、その実現に向けて賃上げを促進する方針を示しています。賃上げ促進税制はこの方針に沿ったものであります。賃上げを行う企業への税制支援制度である賃上げ促進税制の効果については、令和5(2023)年春闘で高水準の賃上げが実現しました。しかし、一方において物価高に賃金の伸びが追いつかない状態で、その効果が上がっていません。これを踏まえて、令和6(2024)年度の税制改正で物価高に負けない構造的・持続的な賃上げの動きをより多くの国民に拡げ、効果を深めるため、賃上げ促進税制が強化されることになりました。今回の賃上げ促進税制の改正では、大企業向け、中堅企業向け、中小企業向けで強化されていますが、ここでは中小企業向けについてその概要を記載します。

賃上げ促進税制の適用

 中小企業向けの適用対象は、青色申告書を提出する中小企業者等で、資本金又は出資金の額が1億円以下の法人、或いは資本又は出資を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000人以下の法人や協同組合等です。
 適用時期は、令和6(2024)年4月1日から令和9(2027)年3月31日までの間に開始する事業年度です。
 適用要件は、雇用者給与等支給額が前年度比1.5%以上の場合です。給与等支給額とは、法人の適用事業年度の所得の金額の計算上損金に算入される国内雇用者(法人の使用人のうちその法人の国内に所在する事業所につき作成された賃金台帳に記載された者をいいます。パート、アルバイト、日雇い労働者も含みますが、使用人兼務役員を含む役員及び役員の特殊関係者は含まれません。)に対する給与等(俸給・給料・賃金・歳費及び賞与並びに、これらの性質を有する給与をいいます。退職金など給与所得とならないものについては、原則として給与等に該当しません。)の支給額をいいます。ただし、給与等の充てるために他の者から支払いを受ける金額がある場合には、当該金額を控除します。適用要件を満たした場合には税額控除がありますが、控除率は給与等支給額の増加額の15%です。さらに、雇用者給与等支給額が前年度比2.5%以上の場合には、控除率は30%になります。

控除率の上乗せ要件

 今回の改正で控除率の上乗せ要件は、教育訓練費の上乗せ要件が改正され、さらに、子育てとの両立・女性活躍支援の上乗せ要件が新設されました。
 教育訓練費の上乗せ要件については、改正前はその額が前年度比10%以上増加の場合でありました。改正後は前年度比5%以上増加の場合であり、かつ、教育訓練費の額が雇用者給与等支給額の0.05%以上の場合となりました。そして、その税額控除率は10%加算されます。これは改正前と同様です。教育訓練費についても簡単に説明させていただきます。教育訓練費とは、国内雇用者の職務に必要な技術又は知識を習得させ、又は向上させるために支出する費用のうち一定のものをいいます。具体的には、法人が教育訓練等を自ら行う場合の費用(外部講師謝金等、外部施設使用料等)、他の者に委託して教育訓練等を行わせる場合の費用(研修委託費等)、他の者が行う教育訓練等に参加させる場合の費用(外部研修参加費等)などをいいます。
 そして、上乗せ要件の新設である子育てとの両立・女性活躍支援は、当期がくるみん認定若しくはえるぼし認定(2段階目以上)を受けた事業年度である場合には、さらに税額控除率が加算(上乗せ)されます。その税額控除率は5%加算されます。くるみん認定とは、仕事と子育ての両立サポートや、多様な労働条件・環境整備等に積極的に取り組む企業に対する認定です。えるぼし認定とは、女性の活躍推進に関する状況や取組等が優良な企業に対する認定です。えるぼしの「2段階目」とは、えるぼしには基本の5つの基準( ①採用 ② 継続就業 ③ 労働時間等の働き方 ④ 管理職比率 ⑤ 多様なキャリアコース)があり、そのうち3つ又は4つを充足して認定を受けることです。なお、くるみん、えるぼしは厚生労働省の認定制度です。

繰越税額控除制度の新設

 中小企業については、欠損法人も多く、税制措置のインセンティブが必ずしも効かない構造でもあるため、賃上げ促進税制の税額控除額について、当期の税額から控除できなかった分は5年間の繰越しが可能になります。ただし、持続的な賃上げを実現するという目的から、賃上げの要件を満たす国内雇用者の給与等支給額を実施している場合に限り、適用可能です。赤字企業に対しても賃上げにチャレンジする後押しをする必要も考えて新設されました。

 以上が、令和6(2024)年度税制改正における中小企業向け賃上げ促進税制の概要であります。税額控除率が改正前最大40%から改正後最大45%になったこと、繰越税額控除が5年間可能になったことが本改正の特徴であります。しかし、持続的な賃上げには、企業の持続的な成長が必要であることは言うまでもありません。物価高や円安など経済状況は厳しいですが、皆様方企業の持続的な成長を祈念いたします。

Ⅲ M&Aという事業承継の選択肢

― 会社を残し発展させる 
 M&Aと聞くと「身売り」「敵対的買収」とセンセーショナルな言葉が浮かぶ方もおられるかと思いますしかし、昨今上場企業でもM&A関連とくくれるくらいサポート体制が出来上がり、国の支援もはいってきており、事業承継を念頭に置いた施策が出てきております。少子高齢化の中、日本経済を考えた時、既存企業の存続は必要不可欠となっているのです。今までは、事業承継といえば、大方親族内での承継が普通でした。ごく少数派では、従業員への承継も見られました。そういった流れから新たにM&Aを活用して事業そのものを残そうとする機運が高まっています。今回は各視点からまとめてみました。

経営者の視点

 事業承継は経営者が元気なうちは、なかなか考えられないようで、病気になって初めて考えるなどどうしても始動が遅くなりがちです。ですが今からでも抑えておくポイントがありそのポイントを見ていきましょう。

  1. 第三者に自社を託すことを、経営者は決断できているか
    「良い条件だったら売却してもよい」という考えでは、もっといい条件がないかと決断できないまま過ごすこととなりましょう。M&Aを進めていく過程では従業員・他の株主・配偶者など通過しなければならないポイントがあります。それを説得していく必要があることを最初に考えてください。
  2. 経営者が引退しても回るビジネスモデルとなっているか
    よくありがちですが、会社が属人化しており社長が引退するとたちまち立ち行かなくなる場合があります。この場合は、現場に権限を落として切り盛りできるようにしておくことが肝要です。
  3. M&A後も人材が残る可能性が高いか、幅広い年齢層の社員が在籍しているか
    人手不足の昨今、優秀な人材確保はどの企業も苦労するところです。買い手側からすれば、人材確保の観点もあります。
  4. 自社特有のアピールポイントはあるか
    買い手側も目が肥えてきています。優良な取引先があるだけでは苦戦することでしょう。
  5. 自社のビジネスモデルの魅力を決算書で示すことができているか
    直近の決算書だけで判断することはありません。少なくとも過去3年と直近の試算表は確認します。いくつかの事業がある場合は事業別に収益状況を説明できるようにしておく必要があります
  6. 資産の所有やお金のやり取りに関して、法人と経営者が明確に区分・分離されているか、又はできるか
    事業と関連性のない資産や負債はないか、法人と個人の関係があいまいな契約の不動産はないか、個人の借り入れに会社が保証しているなどないか整理しておく必要があります。
  7. 設備が老朽化していないか等、適切な投資が行われているか
    買い手側は相乗効果を狙ったところが多く、適切に設備投資を行っているかをみます。それゆえの借入金は適切な投資と判断してみます。
  8. 適切な労務管理ができているか
    労働基準法に準拠しているのはもとより残業時間の実態把握方法や端数時間の処理などすり合わせの難易度も検討事項になります。
  9. 社内にM&Aの秘密を分かち合える協力者がいるか
    M&Aの過程ではほとんどの時間を秘密裏に行う必要がありますが、すべてにおいて経営者が把握しているとは限りません。事業面の詳細な報告など応えていく必要があるため協力者は必要です。
  10. 経営者が月次決算で自社の状況を把握しているか
    自社の数値を押さえておくことや中期的な視野を持っておく必要があります。

中小企業庁

  1. 「中小M&Aガイドライン」
    2020年に発表し2023年に改訂版が公表されました。一人の人がM&Aにかかわることはそれほど多くありません。従って具体的なやり方が分からない状況でした。中小企業庁は「中小M&Aガイドライン」を公表することによってプロセスであったり支援業者であったりを示しております。一つには支援業者も増えている中、悪徳業者を排除するようにけん制もされていると言えます。
  2. 「仲介」と「FA」の違い
    「中小M&Aガイドライン」で説明が必要な項目になっています。
    「仲介」とは買い手側・売り手側双方と契約して仲介者は双方から手数料を受領するもの。「仲介」は双方の立場で支援するものです。
    「FA」は一方の当事者とだけ契約してその一方から手数料をもらうもの。契約した一方の当事者の立場で進めるものです。一概にどちらがいいとは言えませんが当事者はその特徴を理解したうえで契約する必要があります。

 国も後押しの一つとして事業承継・引継ぎ補助金もありM&Aそのものは浸透してきました。ただ実際どうするのといった声は消えません。何度も経験するものではないからです。
 認定支援機関もあり相談窓口も増えており、まずは、現在見てもらっている会計事務所に相談されることが望ましと考えます。
 完結するまで10年と言われていますので早めの対応が必要かと思います。

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事業承継・引継ぎ補助金のご案内

 事業承継引き補助金は、中小企業者及び個人事業主が事業承継、事業再編及び事業統合を契機として新たな取組を行う事業等について、その経費の一部を補助することにより、事業承継、事業再編及び事業統合を促進し、わが国経済の活性化を図ることを目的とする補助金です。

  1. 補助対象事業者の要件
    経営革新枠  経営資源引継ぎ型創業や事業承継(親族内承継実施予定者含む)、M&Aを過去数年以内に行った者、又は、補助期間中に行う予定の者
  2. 専門家活用枠 補助事業期間に経営資源を譲り渡す、又は譲り受ける者
  3. 廃業・チャレンジ枠  事業承継やM&Aの検討・実施等に伴って廃業等を行う者

  • 補助率及び補助上限額
補助対象補助上限補助率対象経費
経営革新枠600~800万
1/2
※2/3
設備費・原材料費・委託費・広告費等
専門家活用枠
600万
売り手支援 2/3
買い手支援1/2 or2/3
外注費・委託費・システム利用料等
廃業・チャレンジ枠
150万
1/2
※2/3
リースの解約費。解体費・廃業支援費
※要件によって増額します

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