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TFGニュース 2023年8月号

中小企業の健全性支援マガジン(毎月1日発行)
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2023年8月号 No.384
経営のお役立ち情報

Ⅰ 土地の低額譲渡

― 思わぬ税金負担に注意してください ―
 
 法務省の「登記統計月報」によると令和4年中の土地売買による所有権の移転登記の件数は日本全国で約130万件にのぼります。不動産の売買価額が通常の価額で取引されていれば何の問題もありませんが、そうでない場合税務上、通常の場合と異なり別途税金が発生する可能性があります。ここでは、低額で譲渡した場合を4つのケース(個人が個人に譲渡、個人が法人に譲渡、法人が個人に譲渡、法人が法人に譲渡)でご説明させて頂きます。ここで取り上げます「時価」とは相続税評価額ではなく通常の取引価額をいいます。

■個人が個人に低額で譲渡した場合

  1. 譲渡価額が時価の1/2以上の場合
    1. 売った人は、通常の譲渡所得の計算で税金を計算します。又、譲渡損失がでた場合は他の不動産の譲渡益と通算できます。
    2. 買った人は、その不動産の売買価額と時価との差額は「みなし贈与」とされます。その不動産の取得価額は売買価額となり、再度売却する際の取得価額はこの時の売買価額となります。      
      ※「みなし贈与」とは、お互い意図して贈与をしたのではなくても実質的に贈与を受けたことと同じように経済的利益がある場合、贈与があったとみなされる行為のことです。従って、贈与税の対象となります。      

  2. 譲渡価額が時価の1/2未満の場合
    1. 売った人は、通常の譲渡所得の計算で税金を計算しますが、損失がでても譲渡損失として認識されないので他の不動産の譲渡益と通算することはできません。
    2. 買った人は、その不動産の売買価額と時価との差額は「みなし贈与」とされます。その不動産の取得価額は売買価額となりますが、この取引が売主にとって損失の取引であれば、買主は売主の取得価額と取得した時期を引き継げます。

■ 個人が法人に低額で譲渡した場合

1.譲渡価額が時価の1/2以上の場合 
   1.売った人は、通常の譲渡所得の計算で税金を計算します。但し、同族会社等の行為又は計算の否認に該当する場合、税務署長による譲渡資産の時価に相当する金額で譲渡所得の計算が行われる場合があるのでご注意下さい。譲渡損失がでた場合は他の不動産の譲渡益と通算できます。
   2.買った法人は、売買価額と時価との差額が受贈益となります。又、取得価額は時価となります。この売買価額が、相続税評価額に満たない価額である場合で、同族会社の(売った人以外の)株主等の価額が増加したときは、譲渡者から増加した部分に相当する金額を贈与により取得したものとして取り扱われます。

2.譲渡価額が時価の1/2未満の場合
 1.売った人は、「みなし譲渡課税」が適用されます。又、譲渡損失がでた場合は他の不動産の譲渡益と通算できます。
※「みなし譲渡課税」とは売買価額を実際の売買価額ではなく時価として譲渡所得を計算します。
 2.買った法人は、売買価額と時価との差額が受贈益となります。又、取得価額は時価となります。
この売買価額が、相続税評価額に満たない価額である場合で、同族会社の(売った人以外の)株主等の価額が増加したときは、譲渡者から増加した部分に相当する金額を贈与により取得したものとして取り扱われます。

■ 法人が個人に低額で譲渡した場合

  1. 売った法人は、時価と売買価額との差額が寄付金となります。買主が役員等であれば賞与となります。寄付金であれば寄付金の損金不算入の規定により限度超過額は損金算入できず、役員への賞与であれば損金算入の制限があるので注意してください。
  2. 買った人は、時価と売買価額の差額は一時所得となります。買主が役員であれば役員賞与となります。又、取得価額は時価となります。

■ 法人が法人に低額で譲渡した場合

1.売った法人は、時価と売買価額との差額が寄付金となり、寄付金の損金不算入の規定により限度超過額は損金算入できません。 
 この差額の仕訳は: 寄付金 / 売却益 上記差額の金額
2.買った法人は、時価と売買価額の差額は受贈益となります。又、取得価額は時価となります。
 この差額の仕訳は: 不動産 / 受贈益 上記差額の金額
 
*売った法人と買った法人がグループ法人税制に該当する場合は、売った法人、買った法人に各々上記1.2の「この差額の仕訳」が入りますが、売った法人は寄附金の限度超過額の損金不算入ではなく全額損金不算入並びに売却益も別表調整により全額益金不算入になります。また、買った法人も、受贈益が益金に算入されません。

Ⅱ 相続税法の改正

― 暦年課税における相続前贈与の加算期間の見直しについて ―
 令和5年度の税制改正において各税目で見直しがされましたが、そのうち相続税、特に暦年課税の贈与を行った場合の相続税への影響の変化についてご説明していこうと思います。

■暦年課税における相続前贈与の加算について

 改正内容のご説明の前に、現時点での暦年課税の贈与が相続税に与える影響とはどのようなものかを見ていきたいと思います。
 ご承知の方も多いかとは思いますが、現行の暦年課税の贈与税は受贈者1名につき110万円までは贈与税がかかりません。この規定を利用して贈与税がかからないように、あるいはかかったとしてもわずかな税額になるように親世代から子世代への財産の移転が毎年のように行われていますが、無制限にこの方法を許してしまうといざ相続が始まった時には残っている相続財産が少なくなっている、ということになりかねません。
 このような弊害が起こらないように、現行の相続税では相続(厳密には遺贈も含まれますが、本稿中ではこれも含めて「相続」と表記します。)により財産を取得した者がその相続の開始前3年以内にその相続に係る被相続人から財産を贈与によって取得したことがある場合には、その贈与により取得した財産の価額を相続税の課税価格に加算し、贈与を受けた財産に課されていた贈与税額はその財産取得者の相続税額から控除する、という規定が設けられていました。すなわち、相続開始前3年以内の贈与に係る贈与税は相続税の前払い、という扱いになっていたのです。

■暦年課税における相続前贈与の加算期間の見直しについて

1.加算期間の延長
 相続開始前3年以内とされていた相続税の生前贈与に係る加算規定の適用期間が相続開始前7年以内と延長されます。
 この規定は令和6年1月1日以後に贈与について適用されますが、いきなりの延長は納税者にとって負担が重たくなることを考慮して令和8年12月31日までは現行通り相続開始前3年間の贈与に限定され、令和9年1月1日以後の贈与については令和6年1月1日以後の贈与を対象とすることで徐々に期間を伸長させていき、施行後7年を経過した令和13年1月1日からは完全に適用されることになります。  

2.贈与により取得した財産の価額から控除される額の設定
 相続により財産を取得した者がその相続の開始前7年以内(改正後)にその相続に係る被相続人から財産を贈与によって取得したことがある場合には、その贈与により取得した財産の価額を算出する際にその財産のうち相続開始前3年以内に贈与により取得した財産以外の財産については、その財産の価額の合計額から100万円が控除されることになります。
 この規定は令和6年1月1日以後の贈与について例外なく適用されます。

■ 考えられる影響について

 条文上は「相続開始前7年以内の贈与」という表現になっていますが、それは結果的にそうなったというだけの話であり、そもそも「7年後のこの日に亡くなるから」という視点に立った相続対策ができるわけではありません。一方、加算期間延長の条文を逆読みすると、令和5年中に行われた贈与が相続税計算に影響を及ぼすのは令和8年中までに相続を開始した場合に限られますが、令和6年1月1日以後に贈与が行われた場合には相続税計算に影響を及ぼす可能性は令和13年以降まで続きます。そう考えると、生前贈与を用いた相続対策はなるべく早く、できれば令和5年中に手を打つことが重要になってきます。特に、オーナー企業の株式を子世代に移転しようとお考えの方はその額が大きくなってきますので早めの対策が必要となってきます。
 いかがでしょうか? 紙面の都合で十分な制度説明はできていないかもしれません。疑問点がありましたらご遠慮なくご相談ください。また、最後に登場したオーナー企業株式の子世代への移転につきましては生前贈与の方法以外にも様々な施策が準備されていますので、この機会に検討されてみてはいかがでしょうか?

Ⅲ 家族信託

― なぜ今、家族信託が注目されるのか ―

■家族信託とは

「家族に自分の財産を信じて託し、代わって管理してもらう制度」です。家族に財産を託すことにより、「柔軟な財産管理・運用・処分」や「自分の望むかたちの相続」が可能になります。新しい財産管理方法や相続対策として注目を集めている制度が家族信託です。

■なぜ今、注目されるのか?

 高齢化と認知症の問題が背景としてあがってきます。高齢者の方の人口比率が上昇するにつれ、要介護認定者も急増しています。また年齢が上がるにつれて認知症になる確率も上昇します。
 認知症が悪化すると、銀行の口座などは凍結されてしまい、子供でも親のお金をおろせなくなります。そうすると、親の介護に手を挙げた子供が金銭的な負担も強いられることになります。
 つまり、70歳ころまでに、認知症に備えた対策が必要と言えます。「自分の財産のことで、子供には迷惑をかけられない。」そういったニーズから、家族の高齢化に伴う様々なトラブルに柔軟に対応できる家族信託が広まってきています。

■メリット

1.財産管理が委託者の判断能力に影響されない
 認知症が悪化した後にも利用できる成年後見人制度がありますが、親族が後見人に選ばれるとは限りません。また、財産の管理運用処分が制限を受けることがあるなど利用しづらいという声を聞いております。そのような背景もあって、親の認知症に備えた財産管理方法の一つとして、家族信託が広まってきました。

2.委託者の思い通りに財産の承継・事業承継を決定できる
 遺言効果があります。これは家族信託契約の中に、次に財産権(財産から利益を受け取る権利)を継がせる人をあらかじめ定めておくことによって、その内容が法律上有効となり、遺言を遺すことと同様の効果を得ることができます。
また、次の後継者だけでなく、次の次の後継者移行を決めることもできます。これは遺言にはなく、家族信託でのみ出来ることです。

3.遺族がハイリスクな不動産を共有しなくて済む
 家族信託が有効なケースの一つとして、親から受け継いだ収益不動産が兄弟での共有になっているケースがあります。この場合共有者の一人が認知症になってしまうと、収益不動産の全体が凍結してしまう危険があります。新しい入居者との契約する場合や大規模な修繕を行う場合は、所有者全員の意思が必要になるためです。
そこで、家族信託を活用することによって経営を一元化して共有者全員が収入を得ることができます。

4.成年後見制度より柔軟な取り決めもできる
 成年後見人制度よりも柔軟な財産管理ができます。成年後見人制度では、本人の財産を守ることに重点が置かれています。従ってそれに反する財産の管理をすることはできません。家族信託の場合は、子供に大きな裁量を与えることができ、元の所有者の財産管理の方向性に沿って投資などができます。

5.相続による遺族の負担軽減
 相続が発生した場合の遺産分割協議が不要になります。
遺産分割協議では相続人全員で話し合い、誰が何を相続するのかを決めなくてはなりません。しかし、相続人の間で意向が揃わなかったり、相続人の1人が認知症などにより話し合いができない場合には、相続の手続きはスムーズにできなくなります。渡す側の親が財産の承継についてあらかじめ決めておくことは、認知症や相続争いによる遺産の凍結を防ぐための、最も有効な方法です。

6.倒産隔離機能が使える
 受託者である子供が破産してしまった場合、子供の財産は差し押さえられますが信託した財産は、あくまで親のものなので、差し押さえできないルールになっています。

■デメリット

1.身上監護をするには成年後見制度を利用する必要がある
家族信託はあくまでも、財産管理のための制度です。従って認知症になった親の契約を代理で行うことはできません。

2.財産管理をだれもやりたがらない場合がある
老朽化した収益物件などは収入より修繕費がかかる場合は持ち出しになるためです。

3.親族間の不公平感を生む恐れがある
2人いる子供の内、1人を受託者とした場合、他の子供に知らせず勝手に進めると親族間の争いに発展することがあります。

4.祖父母や両親に契約の同意を取りにくい
受託者候補の子供だけで進めることはできません。わかりづらい制度であるため理解を得るのが難しい面があります。

5.直接的な節税効果はない
家族信託それ自体には相続税を節税する効果はありません。不動産の名義は子供に変わりますが財産権は親の元に残るからです。

6.遺留分侵害請求をされる場合がある
遺留分を持つ相続人がいる場合、遺留分相当額のお金を請求してくる可能性があります。
 
 このように、メリットデメリットがありますが、デメリット以上にこれからの高齢化社会において家族信託はメリットが多くあります。なによりも認知症になった場合(厚生労働省統計2019年では要介護者の24.3%つまりほぼ4人に1人が認知症)のリスクを回避する方法として家族信託も選択肢のひとつとして考えてもいいのではないでしょうか。
 今月のブックマーク
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