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TFGニュース 2024年7月号

中小企業の健全性支援マガジン(毎月1日発行)
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2024年7月号 No.395

Ⅰ税務調査に対応するためのエビデンス

― 法的証拠の収集方法 ―
 税務当局は国税通則法第74条の2により所得税、法人税、地方法人税、消費税に関する調査について必要があるときは、次の調査、「質問をする」、「帳簿書類その他の物件を検査する」、「帳簿書類その他の物件の提示・提出を求める」、をすることができます。これら税務当局による調査権限をまとめて質問検査権と呼びますが、この質問検査権に基づいて行われる調査が税務調査です。
 ところでエビデンスとは、一般的に証拠・物証・形跡等を含めた意味合いをいいます。税務調査の局面においては、納税者が税務調査官に提示してその主張を根拠付ける資料のことをいいます。(立証責任が納税者側にあるのかという問題はありますが、本記載ではここには触れません。ご了承ください。)
 税務調査に対応するためのエビデンスとは、外部によって作成された外部証拠資料と、本人が作成に関わった内部証拠資料とに分けられます。疎明力の面では、一般的には外部証拠資料の方が内部証拠資料よりも高く証拠力が強いのは言うまでもありません。内部証拠資料は納税者自身が作成する点が弱点ですが、「判断」を主張する手段として活用できます。納税者の説明次第では「主張力」において外部証拠資料よりも活用できる可能性が考えられます。
 エビデンスは税務調査において事実関係を明らかにするするための手段のひとつです。事実関係に係る説明で納税者側においても税務当局側においても活用されることになり得ます。納税者側において税務調査に対応する上でエビデンス作成、整理、主張に係るポイントは、税務当局側に対して、国税不服審判所や裁判所などの係争機関に出ても勝訴できないと思わざるを得ないような説得力がある十分な資料、法的証拠を常日頃から用意しておくことです。
 税務調査が行われると知ってから準備をしても手遅れになる恐れがあります。多くの資料はバックデイトで作成することは困難です。これは往々にして事実関係や時系列がずれてしまうことがあるからです。(つじつまが合わない。)つまり、日頃からエビデンスを整理しておく必要性は極めて高いということです。
 以下、論点となり易い事例でエビデンスの収集方法について少し記載します。

■給与か外注かについてのエビデンス

 給与か外注かにおける違いは、契約の違いです。「給与」の契約は雇用契約です。「外注」は請負契約です。従って契約書の作成が重要です。税務調査では争点のスタートは契約書から入りますので、そもそも契約書がない、記載が不十分であれば、問題外になってしまいます。しかし、給与か外注かについてエビデンスとしての契約書を作成していても契約書と実態に乖離がないことが非常に重要です。万一、実態が問題となった場合には、次のような判定を行います。
1.他人の代替ができるかどうか。
雇用契約では代替はできませんが、請負契約では代替はできます。
2.仕事の遂行に当たり個々の作業について指揮監督を受けるかどうか。
雇用契約は指揮命令を受けますが請負契約は仕事との期限さえ守れば良く、途中の作業について指揮命令は受けません。
3.まだ引渡しを終わっていない完成品が不可抗力で滅失した場合の報酬の請求をできるかどうか。
c雇用契約は労務提供さえすれば対価を請求できますが、請負契約は対価の支払いは受けることはできません。
4.材料が  提供されているかどうか。
雇用契約は提供されますが、請負契約は自身で用意するのが一般的です。
5.作業用具が提供されているかどうか。
雇用契約は供与されますが、請負契約は自身で用意するのが一般的です。
 これらの判定内容により総合的に判断されますが、契約書はエビデンスとなるので文言は慎重になってください。あと、代金支払いによる領収書は当然、外注先が作成したものがエビデンスとして必要です。

■貸倒損失に係るエビデンス

 貸倒れには、法律上の貸倒れ、事実上の貸倒れ、形式上の貸倒れの3つの要件があります。厄介なのは債務者の状況から見て債権の全額が回収できないと明らかになった場合の貸倒れである事実上の貸倒れの判断ではないでしょうか。
 事実上の貸倒れの立証は当初申告においては納税者側にあります。これは貸倒対象になる債務者について特別の事情や背景をより深く十分に理解しているのは通常、納税者自身であろうという考えに基づくものです。事実上の貸倒れは実務において証拠が豊富であったとしても事実認定に着地することは極めて困難です。エビデンスを収集するにしても徹底的に行う必要があります。また、債務者が法人か個人かででも対応が異なります。法人の場合は、決算書や資金繰り表を入手し、実態貸借対照表を作成し、実質債務超過であることを疎明します。個人の場合は、当該個人の手元には1円も残っていないことを疎明します。しかしながら、これらの疎明は非常に困難であると思われます。法人の場合は、まだ可能性があるかもしれませんが。
  従って、回収努力のために何をしたか、どういう経緯で結果として回収できなかったか、ということを稟議書ベースでいいので文書化したものをエビデンスとして残す必要があります。もし、債務者と直接会話ができたならその記録を残す、債務者の同意を得て会話を録音することもエビデンスとなり得ます。その他、エビデンスとして内容証明、特定記録、簡易書留等の郵便(代金督促内容)、簡易裁判所書記官からの債務者に対して送付された支払督促、支払命令、一切入金がなかった旨について経理担当者からの報告書(稟議書でも可)も必要でしょう。
 
 税務調査対応としてエビデンスの存在、収集は重要であることをほんの少しですが事例を踏まえて記載しましたが、このようにエビデンスの収集は税務調査対応だけでなく、会社のガバナンスやコンプライアンスを考えても重要であります。会社の効率的かつ健全な運営に資するものであります。

Ⅱ役員さんと会社の取引について

― その取引に課税がされませんか ―

 日本の法人企業の数は「総務省と経済産業省による令和3年の経済センサス-活動調査」では、約178万社とされています。又、法人企業の役員の人数は、株式譲渡制限がない公開会社は取締役が3名以上、監査役は1名以上(監査役を設置しない場合は、会計参与1名以上)、株式譲渡制限がある非公開会社は 取締役が1名以上と会社法で定められています。これだけの会社、役員の方々がいらっしゃれば、その関係は、単に、取締役としての責務遂行とその対価の役員報酬の支給だけに留まるものではありません。ここでは、役員に対して経済的利益が発生した場合に課税されるものをご説明させていただきます。また、この経済的利益は、一般従業員ではなく、役員さんに対するものなので、定期同額給与の要件を満たせず、法人税法上の損金とならないものがあるのでご留意ください。

■ 日々発生するかもしれない事例

1.    役員に対して社宅等の名目で居住用土地又は家屋を無償又は低額で貸付けた場合は、賃貸料相当額と実際に徴収した賃貸料との差額が給与課税とされます。
    この賃貸料相当額は、(1)小規模な住宅 (2)それ以外の住宅 (3)豪華社宅に分類され、以下の通りの計算式で求めます。
   (1)    建物の法定耐用年数が30年以下は建物の床面積が132㎡以下、30年超は99㎡以下が該当し、
       以下のA、B、Cの合計額(共有部分がある場合は床面積を按分して専有面積に加えて判定します。)
        A.その年度の建物の固定資産税の課税標準額 × 0.2%
        B.12円 × その建物の総床面積(㎡) ÷ 3.3㎡
        C.その年度の敷地の固定資産税の課税標準額 × 0.22%
   (2)    (1)と(3)以外が該当し自社物件か賃借物件かで異なります。
        A.自社物件:以下のイとロの合計額の1/12が賃貸料相当額となります。
         イ.その年度の建物の固定資産税の課税標準額 × 12%(耐用年数30年超は10%)
         ロ.その年度の敷地の固定資産税の課税標準額 ×  6%
        B.賃借物件:家主に支払う家賃の50%の金額と上記Aで算出した賃貸料相当額とのいずれか多い金額が賃貸料相当額となります。
   (3)    以下の条件にあてはまれば、通常支払うべき金額が賃貸料相当額となります。
      床面積が240㎡を超えるものの内、取得価額、支払賃貸料の額、内外装の状況等を総合勘案して判定されます。
      また、床面積が240㎡以下であっても、プール等の設備や役員個人のし好を著しく反映された設備があれば豪華社宅に該当するのでご注意ください。
2.    役員に対して無利息または低利率で金銭を貸し付けた場合は、通常取得すべき利率より計算した利息と
   実際に徴収した利息の差額が給与課税とされ、通常取得すべき利率は、国税庁ホームページにある通り、
   会社が他から借り入れて貸し付けた場合はその借入金の利率、それ以外は以下の通りです。
    ・平成22年から25年中に貸付けを行ったものは4.3%
    ・平成26年中に貸付けを行ったものは1.9%
    ・平成27年から28年中に貸付けを行ったものは1.8%
    ・平成29年中に貸付けを行ったものは1.7%
    ・平成30年から令和2年中に貸付けを行ったものは1.6%
    ・令和3年中に貸付けを行ったものは1.0%
    ・令和4年から令和5年中に貸付けを行ったものは0.9%
   但し、以下のいずれかの場合は給与課税とはされません。
   (1)    災害や病気などで臨時に多額の生活資金が必要となった人で、その資金に充てるため、合理的と認められる金額や返済期間で金銭を貸し付ける場合。
   (2)    会社における借入金の平均調達金利など合理的と認められる貸付利率を定め、この利率によって金銭を貸し付ける場合。
   (3)    上記(1)および(2)以外の貸付金の場合で、上記記載の利率により計算した利息の額と実際に支払う利息の額との差額が
        1年間で5,000円以下である場合。
3.    上記1,2以外に役員に無償又は低額で用益の提供をした場合における通常取得すべき対価の額と実際に収入した対価の額との差額が給与課税とされます。
4.    役員に対して機密費等の名義で支給したもののうち法人業務のために使用したことが明らかでないものは給与課税とされます。
5.    役員に対する個人的費用を負担した場合は給与課税とされます。
6.    役員の社交団体の入会金等で役員が負担すべき分は給与課税とされます。
7.    役員を被保険者兼保険金受取人となる生命保険契約の保険料の全部又は一部を負担した場合はその負担額が給与課税とされます。


■債務を消滅又は引き受けた事例

1.役員に対する貸付金を放棄、又は、免除した場合はその債権の放棄額等が給与課税とされます。
   逆に、会社が役員より借り入れていた債務を相続税対策等で役員が債権放棄した場合、会社側にすれば
   債務免除となり、債務免除益として収益が計上されます。役員側にすれば、確かにその分の相続財産が
   なくなるわけですが、その役員以外に株主がいれば、債務免除による会社の純資産増加分が役員から
   他の株主に対する「みなし贈与」とされ贈与税の対象(債務免除後の株価-債務免除前の株価)となります。
2.役員から債務を無償で引き受けた場合の債務の引受額は給与課税とされます。
 

■ 資産を譲渡した事例

1.法人の資産を低額で役員に譲渡した場合は、法人側では時価と取得価額との差額を売却益、時価と売却価額の差額が役員給与とされます。
  この役員給与は勿論、役員に対する給与課税とされます。
2.役員の資産を低額で法人に譲渡した場合は、法人側で時価との差額を受贈として収益計上します。
  役員側にすれば、譲渡価額を売価として譲渡所得の対象となりますが、譲渡価額が時価の1/2未満であれば、役員は時価で譲渡したもの
  として課税されます。(みなし譲渡)
3.「消費税について、実際に収受した金額が課税標準とされますが、時価に比べて著しく低い価額の場合はその時価が課税標準となります。
4.法人が課税資産を役員に対して贈与した場合は、時価に相当する金額で消費税が課税されます。但し、棚卸資産を贈与した場合は、
  その仕入価額以上の金額かつ、通常の販売価額の概ね50%に相当する金額以上の金額で対価の額として確定申告していればその価額が認められます。
 

Ⅲ 定年70歳時代へ

-シニアの活用?人手不足?-

明治安田生命が2027年度から定年70歳と発表しました。金融機関では初めての試みです。他の企業へ広がるか専門家など注目を集めています。企業にとって人材の確保が課題となっています。

■背景として労働人口の減少

1.人口減少社会へ突入
  現在1億2500万人の日本の人口は、このままいけば2110年には5千万人を切ると言われこの人数は100年前の1915年と同じ規模に戻ると言われています。
  しかし100年前とはかなり状況は異なり、超高齢社会(2020年の65歳以上は28.5%)になってしまうことです。1915年は高齢化率5%と若々しい国だったのです。

2.労働人口
  15歳から64歳の人口を指して統計が取られています。それによると2020年では7,509万人の労働人口(59.5%)は2070年には4,535万人(52.1%)に減ります。
  これは支える人口が減ることとなりますので、働いている方の負担を大きくするしかなくなってきます。

■背景として転職市場の活性化

1.働き方の多様化
  正社員・準社員・派遣・パート・アルバイト最近では隙間バイトといろいろな働き方ができてきました。人材を確保するためにホテルなどは、
  宴会の準備だけの2時間をバイトでカバーするなど、人手不足が深刻化する業界では多様な雇用を創出しています。
2.終身雇用制の衰退
  転職市場が活性化する中で、一つの会社に働き続ける人が少なくなってきています。一昔のように転職はよくないと風潮が、今や転職サイトに
  登録していないといけないような風潮が流れています。優秀な人材ほど定着するケースが少なくなっています。
3.中堅世代の流出
  転職市場が活性化することによって、若手だけでなく、中堅世代の流出も進んでいます。これは企業風土にも理解があり、経験もスキルもある人の
  流出が企業の弱体化への引き金になりかねないと警戒する企業が増えています。

■定年延長

 ではどうするかの対策として先鞭をつけたのが明治安田生命の「70歳定年」です。人材確保が困難になってきている現在、離職する人を減らそうとの発想です。
1.70歳定年
  明治安田生命は2019年度に定年を60歳から65歳に延長し2021年度からは定年後も契約社員として70歳まで働ける再雇用制度を導入しました。
  背景には労働人口の減少はもちろんのこと、健康志向、医療の発達などによって元気な人が増えたことも一因です。又若手社員を積極的に
  登用するとともに定年を延長することでの人材確保が最終目的となっています。
2.契約社員や給与の一律引き下げの見直し
  手法は違いますが、人材確保の目的で一定の年齢になると一律引き下げしていた銀行なども見直しが進んでいます。
  みずほ銀行は55歳から適用していたこの仕組みをなくしました。
 
 年金制度の不安からできるだけ働きたいとする労働者が増えています。新しい職場はなじめなくとも今の会社で続けられるなら、経験・スキルは発揮できるのではないでしょうか。企業は優秀な人材ほど離したくないものです。引き留めるための制度での対応はこれからも進んでいくでしょう。半面優秀な人材は、独立開業やステップアップしていきます。社内で協業できる仕組みを模索し、魅力ある人事制度や給与体系もブラッシュアップしていく必要があるでしょう。

今月のブックマーク

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「経営者通信」経営者のインタビューが多数掲載されており、経営に役立つヒントや気づき、あるいは自己のスキルアップにつなげられるでしょう。 https://k-tsushin.jp/

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